大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和60年(行ツ)169号 判決 1986年1月30日

愛媛県今治市本町三丁目一番地三一

上告人

葛山康史

被上告人

右代表者法務大臣

鈴木省吾

右指定代理人

亀谷和男

右当事者間の高松高等裁判所昭和六〇年(行コ)第三号損害賠償等請求事件について、同裁判所が昭和六〇年七月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

上告人の本訴請求を理由がないものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決を論難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 角田礼次郎 裁判官 高島益郎)

上告人の上告理由

第一点 原判決は、国家公務員法第一〇〇条第一項「秘密を守る義務」、日本国憲法(以後、憲法と称する)第三一条「法定手続の保障」の解釈、適用を誤り、審理不尽、理由不備の違法がある。

被上告人は昭和五九年一二月二〇日付準備書面(以後、被準書と称する)三、2、第一~二行目で「審査請求の審理は非公開」、「担当審判官等には~守秘義務が課される」と主張し、和田も昭和五八年六月八日付和田証人調書(以後、和田調書と称する)六八、で「審判所の仕事は非公開である」「守秘義務が公務員にはあります」と証言しておきながら、和田調書八三、第五~七行目で和田は「先ず審査請求人に自宅で面接を「したい」という話をしたうえで、大むね(「概ね」の書き間違いと思われる)審査請求人の自宅で面接をしている」、(続いて相当部分)「調査地を住所地にさせてもらつたのは、私(和田)の方で希望しました。」この面接場所、調査地というのが繁華街の中にある事務所で、しかも和田調書八四、第二~七行目「そこを通つて事務所とある面接をした場所に入るのですが、その間にあるドアは開いていて」「この図面(乙第五号証)の右側にあたるところのドアも開いていて」と和田は証言しただけでなく、和田調書八五、第三~五行目で「事務所(甲第一号証では社長室となつている)の左側は二枚の戸があつて開いておりました。原告とあるところの右側のドアも開きぱなしで板間が見えました。」と、面談した事務所(社長室)中のドアが全部開きつぱなしであつたと繰返し強硬に証言したのである。これでは、和田自ら、審理の非公開、守秘義務、国家公務員法第一〇〇条、を踏みにじり、上告人に精神的損害を与え、不法行為を行つたことを完全に認諾した、と断定せざるをえない。

にもかかわらず原判決は和田の不法行為を認めなかつたばかりか、上告人が生まれてから面談日まで、だけでなく今日現在まで一度も言つたことがない、それに類することさえ口にしたことがない「公務員のやることは~記録する必要がある」という文句を上告人が言つたと勝手に認定し、法的に何の根拠も権能もない和田や真鍋が『公務員でない』上告人を五時間もの長時間連続して、下痢やはき気がして体調が悪いと訴えているにもかかわらず、長時間取調べ詰問し続けたことは当然であるとした。この点で原判決は憲法第三一条「法定手続の保障」の解釈適用を誤り、事実をないがしろにしたばかりか、国家公務員法第一〇〇条第一項「秘密を守る義務」について和田と上告人とに対し本末転倒の解釈、適用をした為、審理不尽、理由不備の違法が生じた。この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第二点 原判決は、判決に影響を及ぼすことの明らかな経験法則違背、採証法則違背、ひいては理由不備、理由齟齬の違法がある。

1 裁判は紛争解決の一形態であつて、それ以上のものでもなければ、それ以下のものでもない。裁判所が事実をないがしろにし、経験法則を無視するならば、紛争解決の一形態としての機能さえ自ら放棄することになるのである。和田は和田調書七八、第四~五行目で「対話するときは、顔を正面に合わせたのでなく、机をはさんで斜めの角度を持つた形で話をしました」と証言し、和田調書八七、(相当部分)で、上告人から三人(原告、和田、真鍋)の位置関係は上告人の主張、甲第一号証の通りだつたかとの質問に対し和田は「いいえ乙五号証に書いてある通りです。~二人(和田と真鍋)とも机のそばでした」と証言しておきながら、和田調書八七(相当分)で上告人から「原告が最初から紙袋をかかえているのがあなたにすぐわかつたのは、正三角形の頂点の位置(甲第一号証<ア>が上告人(原告)、<イ>が和田、<ウ>が真鍋の位置)にそれぞれが座つていたから、目の前に見えたのでしよう。」との上告人の追求に対し、和田は答えに窮し声が出なかつたのである。

2 和田の証言が論理上矛盾しているのはこれにとどまらない。和田調書三九で和田は、当日上告人に対し「日本国憲法も含めて、法律の話はしていないと思います。」と証言しているが、和田は上告人のところへ遊びに来たわけでも世間話をしに来たわけでもない。所得税の更正処分等に対する審査請求の件で来たのである。法律が和田と上告人との話の争点になるのがあたりまえである。国民健康保険税が所得税法に関係する(所得控除部分)から、何が何でも国保税のことを答えろと和田と真鍋とが執 に繰返し上告人にせまつたことからも、また和田調書六八で和田が「守秘の義務が公務員にはあります。」と証言していることからも、憲法や法律の話は一切しなかつたとの和田証言は論理的に矛盾し、和田の主観から判断しても矛盾、即ち偽証であること歴然としている。

3 さらに、物理的、光学的に経験法則上見えるはずのない階段(甲第一号証参照)が和田の位置<イ>から見えていたという和田の証言、和田調書八四、八五(相当部分)の最後「いいえ(ドアは)あいていました。向こうが板張りなのが見えましたし、階段があるのもわかりましたから、あいていました。」という証言は、和田がいかに事実を歪曲し、虚偽の証言をしたかを示す決定的証拠である。和田の提出した乙第五号証からも階段は物理的に見えないことがわかる。

4 それほど社長室のドアがあいていたとの和田の強弁が矛盾し、既述第一点のように国家公務員法第一〇〇条違反と断定されるのなら、ドアはしまつていたことにすると和田が証言を翻したとしたら、今度はドアのしまつているわずか五畳ばかりの狭い密室で、和田と真鍋の大量喫煙により上告人が体調を崩し精神的肉体的損害を蒙つたことが自動的に立証されてしまうのである。つまり和田はどちらに転んでも救われないのである。

5 田鍋についても、昭和五八年二月一六日付田鍋証人調書(以後、田鍋調書と称する)四で上告人の質問「その確定申告書には(上告人の)給与所得明細書が添付されているのですけど、それを見たことがありますか。」に対し田鍋「あります。」続いて田鍋調書五で上告人「そうでしたら、原告が失業していたことは給与明細書からすぐにわかることではないですか。」との追求に対し、田鍋は「わかりません。」と証言したのである。給与支払明細書には昭和五四年三月退職と明記してあるのみならず、そのほかには給与所得がない、失業していたからこそ、田鍋は給与所得の激減(二九万円以下)、上告人の経済的損害を根拠として『特例』資産合算を適用し、給与所得が通常額あつた例年よりもはるかに高率、高額の所得税を上告人に課する為、税務署長へ決裁に回したのである。もし上告人が失業してなければ、単に給与支払明細書の退職欄、金額欄が書き間違つているにすぎず、田鍋が上告人に『特例』資産合算を適用することは不可能となるのである。これらの点からも、また葛山宣佳、葛山素子に対する来署案内を田鍋が発送し、前後の状況を認識していた点からも、田鍋の『特例』資産合算を適用した主観に基く、上告人の失業について「わかりません」との証言が偽証であること動かしがたくなつた。

以上1から5まで、和田にしろ田鍋にしろ論理的矛盾、経験法則違背に満ちた証言であるにもかかわらず、原判決は和田や田鍋の証言、偽証のみを盲信し、上告人の理路整然とした主張をことごとく退けた。さらには田鍋が異議担当者でないから言うはずがないと全面否認し、上告人もそのようなことは主張していないようなこと、「異議を申立てても棄却されるのではないか」という作文まで作りあげて判決理由とした。

そればかりか、上告人が和田らに再三再四退去要請したことは、和田調書六〇で上告人の「当日、原告はあなたに再三帰える(帰るの書き間違いと思われる)ように要請しましたか。」という質問に対し和田は「会話の中にそういう話も出たかもわかりませんし、私の方からも引き取りたいと申しておりました。」と証言し、上告人による再三の退去要請(気分が悪いという原因については争つているが)は争いのない事実であるし、常識で考えてもわかる事実であるにもかかわらず判決理由に明記せず理由齟齬の違法がある上、退去要請の事実と完全に矛盾する事実、昭和五九年八月一〇日付原告(上告人)準備書面三、第四行目「審査請求には関係が無いから、そういう(録音の)質問にはお答えできません」と明確に拒否した事実とも矛盾する事実、を原判決、第一審判決は勝手に違法に(第一審判決一三枚目裏第二~四行目)「右確認の要求には応じる意思がまつたくないことを口頭及び態度によつて明確に示すかの労を惜しんだ」と認定した。よつて原判決は上告人も被上告人、被準書も主張してない事実を認定することにより、当事者主義、経験法則、採証法則、にそれぞれ違背し、ひいては理由不備、理由齟齬の違法がある。

裁判とは紛争解決の一手段にすぎないのであつて、歴史的事実はそれ自体として永久に残るのである。上告人は迅速な解決を願つて裁判という手段を選んだのであるから、上告人の願いをくんで、科学的で、公正で、矛盾の生じない判決、原判決破棄、を出していただきたい。

以上

(添付図面省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例